気軽に開発できる時代の落とし穴 - ベンダー選びの重要性

誰もが気軽にプログラミングできるようになり、システム開発のハードルは格段に下がりました。
ノーコード・ローコードツールが注目を集めていますが、ゼロからの開発であってもネット上の情報をかき集めたり、AIを活用したりすることである程度のシステムを構築できるようになっています。
このように、自社向けのシステムを簡単に内製・開発できる環境が整ってきたこと自体は歓迎すべきことです。
しかしその一方で、従来では考えられなかったレベルの事業者がシステム開発に参入しているという現実もあります。

実際にあった相談事例

先日、ある企業から「受付業務用のシステムを外部に開発依頼しようと思っているが、この案件で補助金申請ができないか相談したい」との依頼がありました。
補助金申請には発注するソフトウェアの概要を示す必要があったのですが、事業者自身がこれらの資料を作成するのは困難であっため、担当するベンダーに「システム構成図と機能概要の資料を受け取って欲しい」と依頼しました。
ところが、開発を担当しているベンダーの担当者からは「システム構成図とは何を作ればよいか分からない」との返答があったのです。
主旨が伝わっていないのかと思い、直接本人に確認したところ、「独学でプログラミングはできるが、それ以外の知識はない。システム構成図や設計書といった言葉が何を指しているのかも分からない」とのことでした。

気軽にプログラミングできることの弊害

ITベンダーのスキルにはもともとばらつきがあり、「要件定義ができず、言われたままのものしか作れない」「拡張性や保守性を無視した設計」といった問題は以前から存在していました。
最近ではそこに加え、「プログラミングはできるが、それ以外の知識が全くない」という開発者が増えている印象があります。
例えば今回の開発では以下のようなことがみられました。

  • システムテストや運用テストといっても何をするかが分からない
  • 瑕疵担保責任や著作権の帰属など契約上の基本知識がない

こうした状態では、納品されたシステムが稼働せず、トラブルが起きた際にも責任を明確にできないというリスクが高まります。

発注者側のリテラシーが今こそ必要

「誰に発注するか」という業者選定は以前から話題になることも多く、外部の専門家に相談というのも一つの方法です。
ただ、それに加えて重要なのが、発注者自身のITリテラシー向上です。
最近では、発注者側の企業が社員にITパスポートなどの資格取得を推奨する動きも見られます。
一時期「簡単すぎて実務では役立たない」と言われたこともありますが、開発者より発注者の方がITの基本知識を持っているというような事例が珍しくない今、ITパスポートレベルの知識であっても非常に有効です。
もちろん、開発規模が大きい場合や、基幹システムのように業務の中核を担う機能を開発する場合は、専門家と連携しながら慎重に判断することが必要です。

パートナー選びは経営判断

IT開発が身近になった今こそ、「誰に頼むか」はこれまで以上に重要です。
「安いから」「すぐできるから」「知り合いだから」といった理由だけで決めると、事業の根幹を揺るがす大きなリスクになりかねません。

信頼できるパートナーを選ぶには、「プログラミング能力」だけでなく、業務知識・設計能力・コンプライアンス等の視点も必要です。
ITは「導入すること」が目的ではなく、「業務に役立てること」が目的です。その第一歩は、正しいパートナー選びから始まります。

最後に宣伝にはなってしまいますが、業者選定や発注の段階でも不安な点があれば遠慮なく専門家に相談しましょう。

 

みちのくIT経営支援センター 理事 清野浩司