こんにちは、会員の高木です。
みなさん「商売」と聞くと、どんなイメージが浮かびますか?
「お金儲け」「厳しい競争」「なんだか難しそう…」。社会人として働き始めると、こうした言葉が急にリアルな重みを持って迫ってきます。
私たちは、資本主義というルールの上で商売(仕事)をしています。でも、その本質って何なのでしょうか。ただ利益を上げ続ければ、私たちは幸せになれるのでしょうか?
今日は、この「商売」という仕組みの本質から、私たちが今直面している「大きな変化」、そして「これからの豊かさ」について、一つの流れとして考えてみたいと思います。
「利益」は、なぜ必要なのか?
まず、すべての商売の原点であり、最大の関心事である「利益」についてです。なぜ会社は利益を出さないといけないのでしょうか?
「利益=悪」のようなイメージを持つ人もいますが、それは大きな誤解かなぁと感じています。利益は、会社が「生き続ける」ためのエネルギーそのものなんです。
もし利益がゼロ、あるいはマイナス(赤字)が続けばどうなるでしょう。皆さんへのお給料が払えなくなり、オフィスの家賃も、商品の仕入れ代も払えません。やがて会社は止まってしまいます(倒産)。
利益は、会社という車を走らせる「ガソリン」です。
さらに、新しい商品を開発したり、万が一の危機(パンデミックや災害など)に備えたりするための「未来への貯金」でもあります。
利益は、悪いことどころか、会社(と皆さんの雇用)を守り、未来を作るために「絶対に必要なエネルギー」なのです。
「儲け」の罠と、長続きする商売の秘訣
では、そのエネルギー(利益)は、多ければ多いほど良いのでしょうか?利益がガソリンや未来への貯金なのであれば、多いほうが良さそうです。
しかしここで、多くの商売が陥る「罠」があります。
それが、「目先の儲け(量)」を追いすぎる罠なんです。
利益を「最大化」しようと焦るあまり、品質を偽装したり、従業員を酷使したり、顧客に無理な営業をかけたりする。確かに「その瞬間」は儲かるかもしれません。
しかし、その結果どうなるでしょうか。
今の時代、そうした不誠実な行動はすぐにSNSで拡散され、「あの会社はヤバい」と炎上します。最も大切な「信頼」を一瞬で失うのです。
長く続き、愛されている商売には、古くから伝わる秘訣が備わっていたりします。
それは、近江商人の「三方よし」という哲学です。
- 「売り手よし」(自分たちが儲かる)
- 「買い手よし」(お客さんが満足する)
- 「世間よし」(社会全体にも貢献する)
この3つが揃って初めて、商売は持続可能になります。信頼を失うような「目先の儲け」は、結局「三方よし」のどれかを(あるいは全てを)破壊してしまうのですね。
現代が直面する「三方よし」の壁
この「三方よし」は素晴らしい考え方です。しかし、現代において、この「三方よし」を実践するのは、昔よりずっと難しくなっています。
なぜなら、「世間」がとてつもなく複雑に、広がりすぎたからです。
昔の「世間」とは、自分たちの活動が目に見える「ご近所さん」や「地域コミュニティ」でした。
しかし、現代の「世間」はどうでしょう。
- 見えにくい場所(グローバル化)私たちが着ているTシャツの原料は、どこの国の農場で、どんな労働環境で作られたのか? 私たちのスマホの部品工場で、不当な搾取は行われていないか? …それらも「世間」ですが、あまりに遠く、見えにくくなっています。
- 人間以外の「世間」(環境問題)CO2の排出、海洋プラスチックごみ…。地球環境も、私たち全員の土台となる大事な「世間」です。この「世間」へのコスト(負荷)を、私たちは正しく払ってきたでしょうか。
- 勝ちすぎ問題(格差)「三方よし」で正しく競争した結果、勝者が市場を独占し、富が極端に偏ってしまったら…それも本当に「世間よし」と言えるのでしょうか。
「三方よし」の精神は今こそ必要ですが、私たちは「世間」の範囲をアップデートし、これらの新しい「壁」を乗り越える方法を考えなくてはなりません。
私たちが求める「豊かさ」の変化
この「壁」と同時に、私たち自身が求める「豊かさ」のゴールも、大きく変わってきています。
かつての「豊かさ」は「量」でした。
テレビ、車、家…。より多くの「モノ」を所有することが豊かさの象徴でした。
しかし、モノが溢れた現代。私たちが心を動かされ、お金を使いたい場所は、「質」へとシフトしています。
- 「モノ」より「コト(体験)」(例:旅行、フェス、スポーツ観戦、学び)
- さらに、「コト」より「イミ(共感・応援)」(例:社会貢献につながる商品、環境に配慮したブランド、自分の好きなクリエイターを応援する)
商売も、この新しい「豊かさ(=質の追求)」に対応しなければ、誰の心にも響かなくなってきているのです。
なぜ「良い商売」ほど生き残りにくいのか?
ここで、現代の商売が直面する、最も大きなジレンマが生まれます。
「三方よし」の壁と、「豊かさの質の変化」が組み合わさった問題です。
「質」を追求する商売(A店)と、「量(価格)」を追求する商売(B店)があったとします。
- A店: 「すごく良い材料で、職人が手間暇かけ、環境にも配慮(=現代の世間よし)した。でも、どうしても高くなる」
- B店: 「そこそこの品質で、海外で大量生産。とにかく安い」
「質」の豊かさが大事だと分かっていても、多くの消費者は、日常では「安い」B店を選んでしまいます。
その結果、「良い商売」のはずのA店が、価格競争に負けて潰れてしまう。
これは、社会全体にとって大きな損失です。
この「質」の価値を、どうすれば守り、育てていけるのでしょうか。
「良い商売」を支えるのは誰か?
「政府が補助金を出すべきだ」「大企業が寄付で支えるべきだ」。
それも一つの答えです。しかし、政府や大企業という「特定の誰か」が価値を決め、お金を配分する仕組みには、「恣意性」が入り込む危険が常につきまといます。
最も健全で、本質的な支え手は、私たち「消費者」です。
私たちが「A店」を選んで買うこと。
これこそが、A店が存続するための何よりの力になりますね。
「買う」という行為は、単なる「消費」ではないんですね。
その会社、その商品に対して、「あなたの商売に、未来も続いてほしい!」と意思表示する「応援(投票)」でもあるわけです。
未来をつくる「両輪」:事業者と消費者の新しい関係
しかし、現実にはA店は選ばれにくい。このギャップを埋めるには、「売り手」と「買い手」の双方の歩み寄りが必要です。未来の商売は、この「両輪」によって作られるのです。
① 事業者(売り手)の役割 = 伝える努力
まず、A店側(事業者)の努力です。
「良いモノを作れば、黙っていても売れる」という時代は終わりました。その「質」を、顧客に「伝える努力」が不可欠です。
- 「なぜ、この価格なのか?」
- 「どんな想い(哲学)で作っているのか?」
- 「これを買うと、どんな社会(環境)貢献につながるのか?」
安さで戦うのではなく、その価値を「言語化」し、共感してくれる「ファン」になってもらう努力です。
ここで、「利益追求の手を緩めろ」と言いたいのではありません。稲盛和夫氏の「足るを知る」という哲学も、「強欲の罠に陥るな」という戒めであり、「儲けるな」という意味ではないのです。
事業者の皆さんは、利益追求を萎縮する必要はありません。
自らの仕事の「質(価値)」を徹底的に追求し、その結果としての「利益」は、堂々と追求してください。 そして、その価値をその意味を、自信をもって「伝える」こと。それがこれからの事業者の役割です。
② 消費者(買い手)の役割 = 汲み取る努力
そして、もう一つの車輪が、私たち「消費者」です。
私たちは、「伝えられるのを待つ」だけではなく、その価値を「汲み取る努力」をする必要もあるのです。
安さだけで選ぶ「思考停止」から、ぜひ一歩踏み出してみてください。
- 「なぜ、これはこんなに安いんだろう?(誰かが無理をしていないか?)」
- 「なぜ、これは高いんだろう?(どんな手間や想いが込められている?)」
価格の裏にある背景をちょっと想像してみる。「賢い消費者」になることが、A店のような良い商売を未来に残す力になります。
結論:「交換」から「共創」へ
これまでの商売が「モノ」と「お金」の交換だったとすれば、これからの商売は「価値(想い)」と「応援(投票)」の共創です。
事業者は「価値」を懸命に伝え、消費者はそれを「汲み取って」応援する。
このコミュニケーションを通じて生まれる「信頼」や「ファン」との繋がりこそが、これからの会社にとって一番の「資産」となります。
「良い商売」がちゃんと報われる社会。
それは、誰かが作ってくれるものではありません。
私たちの「仕事(伝える側)」と「買い物(選ぶ側)」、その両輪が回った先に、その未来はあります。明日からのあなたのアクションが、社会の「豊かさ」を作っていくのです。
ぜひ皆さんも、それぞれの商売の先に何があるのかを考えてみてください。

