ITコーディネータとしての20年、そして変革の時代へ
こんにちは。MITBAC代表理事の本田です。
私はITコーディネータの資格を取得して、今年で20年になりました。
会社員時代にこの資格を取り、その後、独立して19年目になります。ありがたいことに、ITコーディネータとしての仕事だけで食って行けていますが、これまでの20年間、ITの進歩・進化は目覚ましいものがあり、私たちITコーディネータもその変化に対応しながら、クライアントとともに成長してきている人たちが多いのではないかと思います。
特にここ数年は、クラウド技術やIoT、AI技術の広がりを踏まえ、デジタルトランスフォーメーション(DX)に取り組まなければならないという声があちこちで聞かれるようになっています。
企業のIT戦略は以前にも増して重要になってきていることを感じていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
最近の流れの中で、特に最近注目を集めているのが生成AIの進化です。生成AIは、データ分析や戦略立案を自動化し、企業が迅速かつ的確な意思決定を下すための強力なツールとなりつつあります。この技術の台頭により、私たちITコーディネータの役割やスキルにも変革が求められる時代が到来しました。
私は、自分自身がITコーディネータとして活動しているのに加え、ITCインストラクターとして、これからITコーディネータを目指そうとしている方々に対する研修も行ってます。
そのような立場から、今、この変化の中で、我々ITコーディネータがこれからどう変化していくべきかを考えるとともに、これからITコーディネータを目指す人々や、ITコーディネータを活用しようとする経営者に向けて、私なりの、今後の新しいITコーディネータ像についてお伝えしたいと思います。
生成AI時代に求められる新たなITコーディネータのスキル
生成AIがもたらす変化は、企業経営において革命的と言えます。AIはデータの解析やパターンの予測、戦略立案に大きな貢献をしています。今までITコーディネータが担っていた一部の業務、たとえばデータ収集や分析、さらには課題の抽出や戦略シミュレーションまでもAIがそれなりに代替できるようになってきました。
これにより、ITコーディネータの役割は単なる知識だけの「技術支援者」や「アドバイザー」にとどまらず、より高度な伴走者として、クライアントの経営に深く寄り添うスキルが求められています。具体的に言えば、IT経営推進プロセスガイドラインにおけるIT経営共通領域(プロジェクトマネジメントやコミュニケーション、モニタリング&コントロールといった領域)や、変革認識に関わる領域での支援に関するスキルの重要性が今後ますます高まっていくでしょう。
例えば、以下のような役割が求められていくのではないかと思います。
- クライアントとの深い信頼関係の構築
今後は、クライアントの経営層や現場のメンバーと強い信頼関係を築き、AIが提供するデータや戦略をどのようにビジネスに組み込むかをサポートする能力がますます求められるようになってくると考えられます。
生成AIは戦略提案や意思決定支援のツールとして有効ですが、それを理解し、経営に反映するプロセスには、やはりまだ人間の判断や調整が不可欠です。
- プロジェクトマネジメントと実行力
AIが戦略策定を効率化する一方で、現場でのプロジェクト実行や問題解決は依然として人間の役割が重要です。
プロジェクトマネジメントスキルを持ち、クライアントが実際に変革を遂げられるように、戦略の実行を強力にサポートすることが求められます。
- 変革マネジメント
経営環境や技術が急速に変化する中で、企業が変革を受け入れ、組織として適応できるようにサポートする役割も非常に重要です。
新しいシステムやAIの導入に対する現場の抵抗や不安を解消し、スムーズに変革を進めるための支援がITコーディネータに求められます。
生成AI時代におけるITコーディネータの価値
生成AIの進化により、ITコーディネータが担っていた分析や計画業務の一部はAIによって代替されつつあります。しかし、ここで忘れてはならないのは、AIはやはりツールであり、最終的な意思決定や実行は人間の手に委ねられているということです。
「ITはツールに過ぎない」
というのは、もはや使い古された言葉であるようにも感じられますが、今こそまた原点に立ち返り、
「AIはツールに過ぎない」
ということを心に留め置くべきではないでしょうか。
クライアントがAIの出す提案をどう解釈し、どうビジネスに取り込むかということに対する「実行支援」にこそ、これからのITコーディネータが発揮すべき大きな価値としていくべきなのではないかと思います。
特に中小企業では、AIを含めたITを上手く活用して業務の効率化を図ることがこれまで以上に求められますが、同時にその変革に対応できる企業体質を作り上げることが必須です。ここで、ITコーディネータがしっかりとクライアントと伴走し、変革を成功に導くことが非常に重要です。
具体的には、以下のような場面でITコーディネータの価値が高まります:
- システム導入後のサポート
AIに限らず、情報システムを導入した後の運用や効果測定、さらにその結果をもとに次のステップを提案し、実行に移すサポート
- セキュリティリスクや倫理的課題への対応
AIの進化に伴い、データセキュリティやプライバシー保護の重要性が増しています。ITコーディネータはクライアントが安心してAIを活用できる環境を構築するため、セキュリティや倫理的配慮に対するサポートも行っていく必要が増していくでしょう
- 変革に対する社員の教育やトレーニング
新しい技術に対して現場が抵抗感を持たないように、社員教育やトレーニングも伴走型でサポートすることが効果的なのではないかと思います。コミュニケーションスキルの重要性が増していくであろうことは言うまでもありません
これからのITコーディネータに求められる「人間力」
生成AIの時代が到来したことで、ITコーディネータに求められるスキルセットの重み付けはこれまでとは少し違う方向へとシフトしていくように思います。
AIに任せられる部分は任せ、私たちはよりクライアントに寄り添い、人間としてのサポートや信頼関係の構築に力を注ぐことが求められるようになるでしょう。
これからITコーディネータを目指す皆さんにとって、単なる知識の伝達やテクニカル・スキルだけでなく、クライアントと深く関わり、彼らの課題解決に寄り添う「人間力」こそが鍵になってきます。
一方で、経営者の皆様にとっては、生成AIという強力なツールを導入する際、その技術をどうビジネスに適用し、変革を成功に導くための伴走者としてのITコーディネータを活用することが、企業成長の鍵となるでしょう。
生成AIが進化する一方で、私たちITコーディネータが果たすべき役割はますます重要になってきます。これからも、クライアントとともに歩む存在として、企業の未来を切り開くお手伝いをしていきたいと思います。
これからITコーディネータを目指そうとしている方々、また既に資格を取得しITコーディネータとして活動されている中でも、今後の社会の大きな変化の中で自分の立ち位置を迷っている方々に言いたいのは、今、このような時代だからこそ原点に立ち返って欲しいということです。
ITコーディネータの資格が作られた当初、「ITベンダーとユーザ企業の橋渡し」ということがよく言われていました。
それは、どのような技術的な変化や社会的な変化があったとしても変わらないものだと思います。
たまに(よく?)、ITコーディネータはもう時代に合っていない、時代遅れだということを言う方がいらっしゃいますが、私は全然そうは思っていなくて、むしろこれからの時代にこそITコーディネータがその真価を発揮すると思っています。
もちろん、技術的な変化や法律制定などの社会的変化によって、対応していることの表面は変わっているように見えても、本質的な部分は全く変わっていないと思います。
逆に言えば、そのような本質の部分に目を向けず、表面的な方法論やスキルにだけ目を奪われてしまうと、常に目新しいものに心を奪われるだけの資格になってしまいかねません。
私は、以前別のところでも言ったことがあるのですが、ITコーディネータを単なる資格ではなく、社会的な役割と考える人たちがどれだけ増えていくか、またそのような仲間を我々がどれだけ増やしていけるかが、今後の日本の社会の方向性を決めていくのだと思っています。
経営者の方々は、ぜひお気軽に我々に相談していただきたいですし、できれば社内の担当者様たち(あるいは経営者自ら)ITコーディネータとしての勉強をしてみていただきたいと思います。
また、これからITコーディネータを目指している人たちも、方向性に迷ったら、ぜひ話を聞かせていただきたいなと思います。自分なりのITコーディネータとしての役割、新しいITコーディネータ像について一緒に考えていきましょう。
代表理事 本田秀行