キャッシュレス決済をいかに支援するか

各種キャンペーンでシェアを拡大してきたPayPayが投資した資金の回収モードに入ってきたようだ。
資金回収の手始めは決済手数料のアップや他社ユーザへの課金を強めるのかと思っていたが、ソフトバンクユーザのチャージに課金するとこから着手したのは意外なところだが、今後、課金範囲は拡大するのだろう。
キャッシュレス決済は「決済・会計業務の生産性向上、インバウンドへの対応」などを理由に推奨されてきたが、コロナ禍においては非接触で決済できることも追い風になり、右肩上がりで拡大し続けている。
デジタル活用を支援する側としてはキャッシュレス決済を紹介したり、推奨することが求められるケースも多い。
「これからはキャッシュレスですよ」と闇雲にキャッシュレスを推奨する支援者も多いが、デジタル化だけでなく経営という視点から見ることや、機種選定だけでなく運用面の配慮も必要である。

キャッシュレス決済で見られる問題点

(1)決済が効率化していない

決済の効率化を図ることで時間短縮やコスト削減することが狙いの一つだが、会員カードやクーポンも併用し、現金以上に決済が煩雑化しているケースも見受けられる。
オペレーションが煩雑になることで決済時間が長時間化することだけでなく、トラブル時には特定の担当者でなければ対応できず、逆に非効率な働き方を招いていることもある。

(2)正しく決済されない

これは私が行きつけの店舗での話だが、昼食を終えてQRコードを読み取ってはいるものの決済完了の画面が表示される前に立ち去るお客さんが散見された。
悪意があってこのようなことをしているわけではないだろうが、この店舗では現金決済時ははありえなかった食い逃げが頻発しているような状態であった。
ここでは「決済完了画面を確実に確認すること」をアドバイスしたが、決済したつもりでも通信途絶や残不足で決済が完了しないことがあることまでは考えが及んでいなかったようである。

(3)売上増加に繋がらない

キャッシュレス決済の目的に「インバウンドへの対応」もあるが、そもそもキャッシュレス決済を希望する外国人が来店しない店舗は多い。
「外国人は来店しないが、日本人のキャッシュレス決済が増えてきた」という事業者の声も聞かれるが、実際に決済状況を分析してみるとこれまで現金で支払っていた客さんがキャッシュレスに移行しただけというケースが多い。

(4)利益は確保できているのか

事業者がキャッシュレス決済を導入した場合には約2~4%の決済手数料が発生するので、現金決済をしていたお客様がキャッシュレス決済に変更するということは約2~4%の値下げ販売を行うのと同等である。。
昨今の原材料高騰により、どのタイミングで、いつ、どの程度値上げするかは喫緊の課題になっている。
「今までの価格では事業を維持することが難しい」と言っておきながら、利益削減に繋がるキャッシュレス決済を「いまどき、キャッシュレス」というだけの理由で導入するのは疑問だが、このような判断がなされるケースは多い。

キャッシュレス導入を支援する際の留意点

キャッシュレス決済を導入することで全てが良い方向に行くとは限らないのは前述したとおりである。
このような課題があることを踏まえた上で、決済手数料を超えるような価値を生み出すためにはどうするか、課題を克服するにはどうするかも踏まえた上でキャッシュレス導入の支援にあたるべきだろう。

(1)コスト削減に繋がるか

キャッシュレス決済を行うことで会計担当者の負担軽減、作業時間短縮に繋がっていることや、その結果として経営上のコスト削減に繋がっているかを確認する。
決済時間が短くなることが経営上の効果ではない。短縮した時間を活かして、回転率が向上したり、手の空いた従業員が別な作業をこなせるようになるなどが必要である。
また、正しく決済されないことや特定の担当者が長時間拘束されたりすることを防止するには従業員向けマニュアルの作成や、トラブル時の対応訓練なども視野に入れると良いだろう。

(2)売上拡大に繋がるか

会計を電子化することで会計の締めが楽になるが、それ以上に重要なのは売上状況が可視化されることである。
可視化された電子データを使って、販売状況の分析を行うことで商品構成の見直しやより効果のある販促手段を展開することが可能である。
キャッシュ決済ができるレジの中には、このようなデータ分析が標準提供されているものもある。
逆に、販売状況を出力するには別途費用が発生するという製品もあるので、どのようなデータ分析を行うのかは機種選定以前に想定しておかなければならない。

 

みちのくIT経営支援センター 理事 清野浩司